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1981年(昭和56年)6月19日

竹村健一特別講演会 於:大阪江坂・大同生命ホール

対談者:評論家 竹村健一 氏
能開センター代表 西澤昭男

西澤:
先生、大変お忙しいわけですけれども、本当にそのノート1冊で行動されておられるのですか。スケジュールをきちんと整理して行動されてるんでしょうね。
竹村:
しとらんしとらん。このノートですけどね。こういうふうに、いろいろはさんであるわけです。講演なんかの時は、これを使ってします。本やら雑誌やら読んで取ってくるわけだから、いろんなものを読んでますよ。しかし、持ち歩くときはこれだけ。
 どの情報が肝心かという事を見抜いて、資料集めに関しては、ここが肝心だと自分の判断でやっていったほうが、個性的な資料集めができると思うね。ぼくの言うことがユニークだというのは、みんなが大切だと思うことを、必ずしも取らないわけやね。ぼく自身が大切だと思うのを集めているから、そういうのはほかの人がつい、見のがしていることだったりする。
 新聞だったら大きな見出しは見ないことです。1面や大きく出てることはみんな知ってるんだからね。とばして3面、4面の小さなことばっかりみるんやね。そういうゲリラ戦術というか、それは1つのユニークな知識の持ち主になり、従ってユニークな発想のできる人間になれる1つの方法でしてね。
西澤:
ははーん、なるほどね。
竹村:
それはビジネスなんかでも同じでね。大体が子どもを一流会社、有名なところに入れたがるけれども、そんなのは競争が激しいから、入るのも苦労する。入った後も、みんな優秀な奴やからぬきん出るのも苦労する。ところが、人が名前を知らんような業種とか会社だとだいたいアホしかいっていない。平均程度でも偉くなるわけです、早ように。それで、そういう会社がね、しばしばよう儲けてたりするんです。
 日本人はだいたいが、みんなが行くところへ行きたがる。と、どうしても混雑するわけ。みんながあっち向いてる間、こっち向いたら、ものすごすいてるんですね。これは非常に楽して得する方法です。
西澤:
なるほど竹村先生独特の考え方と思うんですけど、そうしたユニークな先生を育てられたお母さまは、どういった教育をされていたんでしょうか。興味のあるところなんですが。
竹村:
あんまりぼくね、親に影響受けたと思わないんだけども、自由にさしてくれてたということかな。あまり枠にはめられなかったということでしょうね。
 高感度人間いうてね、感度が高い、時代の流れをよくつかむ人間。3000人のアンケートとったら、ぼくが1位でね。長嶋が2位で、3位がデザイナーの三宅一生、4位が千代の富士、原辰徳、沢田研二、タモリ・・・。まあ人気投票みたいなもんだけど。なんで感度がええかというと、枠にはまってないからやと思う。わくがないから、素直に感じるから、時代がどう動いているかということが感じられるんだ。それらしくせえというようなことをよく言うけど、そんなことすると、自分の周りに枠を作ることになる。知らん間に世の中に対する感度が鈍くなる。ぼくなんか、幼い頃から自由にさしてくれたから、感度がものすごええんだと思いますね。ぼくのことを評論家やというてる人多いけど、英語の先生もしたし、国際問題もやるし、会社もやってるし、何屋さんかわからん。つまり枠にはまってないということで、そのほうが変化の激しい時代には適してると思うね。
西澤:
でも、なかなかわれわれには、そのまねはできないですね。
竹村:
まねできないてね、そんなことはないわ。ただ難しく考えたらあかんのや。好きなように生きてるとそないなるねん(笑)。
西澤:
ああ、そうですか。ところでお子さまの教育に関しては、どういったことを・・・。お子さまは東大に入られてるとか、おききしましたが。
竹村:
まあ、あれは運だと思うし、息子もそう思ってる。東大の学生はね、半分は運で入った奴で、半分は勉強して入った奴や。だいたい運で入った奴のほうが、将来伸びるんですよ。勉強して入ってるってことは、幼稚園のころからやってるでしょ。幼稚園から小、中、高、大学受験で最後の力をふりしぼって、入ったら後ボーっとしてるわけ。運で入った奴らは、そこからまだ余力がありますからね、後伸びていくのは、そういう奴だと思う。入るのは別に何もせんでも入るんですよ。入らんのは入らん。入らんのまで、無理してやらすと、まあ中には入るのがおるんだけど、長い目で見たら、そういうのはかえってダメだと思う。ま、うまく入ればそれでいいけど、入らなければものすごい落胆しなあかんわな。勉強してないと、入らなくても落胆しない。そら、あたりまえや。でも、もし勉強してないのに入れたらものすごうれしいでしょう。考えてみたら勉強せんと入るのが一番ええ(笑)。
 うちの息子の場合は、塾とかそんなもんはほとんど行かなかった。ずっとラグビーやってましたしね。高3になってからは、音楽に夢中になって、キース・ジャレットとかのファンになってね。ピアノやりだしましてね。卒業記念の映画作ったりもしてました。1月、2月は勉強やってたような気もしますけど。ぼくもあんまり家にいませんし、わからんけど。それでも通るでしょ、通る時は。うちは全部通るか言うたら、そんなことないよ。次男は今年すべりましたから。ほうぼう受けて全部すべりましたから。兄貴見てて「こら、何もせんでも通るわ」と思ったのが通らなかった。運が悪かったんですね。長女が今3年で、今年は次男といっしょに受験するわけです。これは次男すべるとやっぱりちょっと恥ずかしいでっしゃろな。いくらなんでも。だから今に勉強するんじゃないかと思ってるんですけど。そういうふうに自覚したほうがいいですね。
西澤:
もうちょっと、本当は塾かなんか行って、がんばってというようなことをお聞きしたかったんですがね。(笑)
竹村:
行ったほうがいかんよりはいいでしょう。たぶん。(笑)
西澤:
ご長男ですけど、勉強はあまりやらなかったとしても、普段の生活とか、趣味とか、先ほど音楽に夢中になっていたと言われていましたが、1つのことに熱中されるところがおありになるわけですね。
竹村:
しょっちゅう熱中してるわ、何かに。熱中するということは、イヤなことをやるよりは、早く学べると思うし、いいことだと思いますね。
西澤:
親御さんからすると、マンガやプラモデルに熱中するだけ、勉強にも熱中したらいいのに、ということになりますけどね。
竹村:
うちの次男も旅行が好きで、汽車や自動車のプラモデルを作ってばっかりおる時に、汽車の運転手になりたい、阪急に入りたいとか言うとったけど、ぼくは「同じ旅行するんだったら、阪急や国鉄の運転手よりは、日航のパイロットのほうが世界中行けるよ」言うたりました。「そうやな」「ほなら、日航のパイロットなろう思ったら試験難しいから勉強したほうがええんとちがうか」「そらそうやな」とこうなるわけです。本人の興味とか理解とかを引き出すことによって、「そらそうやな」と納得して本人がやれば、そのほうがいいでしょ。
西澤:
ところで、先生はあらゆる分野の本を書かれ、各方面の方々と対談をされたりなさっているわけですが、先生の頭の中はいったいどうなってるんだろうかと思ってしまいます。そういう各方面の知識・情報に常に同時平行的に興味を持って、取り入れられているのですか。
竹村:
ぼくはね、やらなあかんという状況におかれたら、ものすごくイヤでほかのことやりたいねん。原子力問題の話するいうたら前の日は絶対原子力の本なんか読みません。一週間か10日ほど前に読んでたりする。まあ、読みたい時に読んでるということやね。だいたいがもう場当たり的ですよ。場当たり的いうても、これで50年間やってきたんやから。50年いうたら、20000日くらいあるでしょ、それを24倍したら何時間になるんですか。場当たり的いうてもこんなん毎日やってたら、たいがいのことはわかるようになるんですよ。それにあんまり難しい考えんでも、自分で自分の頭を使って判断していったら楽です。日本人は学ぼうとする姿勢が多すぎると思いますね。受動的にできている。もっと自分を発進するようにしたほうが、頭の回転もようなりますね。
西澤:
あの、ところでこういう時代ですから・・・・・・。
竹村:
そないにあなたも次から次に質問せんでも。この人はぼくと同じようなタイプだと思うね。こういうのがええんですよ(笑)。
西澤:
そうですか。
竹村:
こういう人の経営の塾だからきっとええと思う(爆笑)。
西澤:
まいったなこりゃ。ええ、まぁ、あの・・・・・・ところで、これから生きてゆく子どもたちっていうのは、どういう力みたいなものが必要なのかですね。
竹村:
まず、一流校へは行けたら行ったほうがええですよ。ええ学校いうのは、ええ奴があかん学校より多いですな。仲間の間で、切磋琢磨して、よけい頭が進みますよ。行けるなら行ったほうがええけど、行ける能力がない、勉強もきらいやいう時に、落胆する必要はないいうことです。10の力の人は1番いいとこ行ったらいい。7の力の人が無理して10のところへ行かんでも、5のところで行ってもいい。ただその時には安心しないように。いつでも自分で努力する、1人で学習する習慣を身につけてないかんいうことです。
 それから先のことはわからん時代ですから、どんな事態に直面しても絶望しない精神構造が一番大切です。柔軟な精神構造ですね。
 いろんなつらいことが起きたときでも、物事というのは、つらいことが表に出てても、だいたいええことが裏にあるはずなんやと思えばいい。恋人にふられたら普通は悲しいけど、考えようによっては、おかげで他のひととつきあえるようになった可能性が広がったわけやから、ふってくれてありがとう思たらええ。一見不幸とかいやなように見える時に、いつでもいいことを考えることができるような性格にしといたら、どんな時代がきても、絶望することないですわ。
 それからね、色々やったらいいと思う。ぼくなら、女の子をくどくときにね、1人の人だけをくどいているとね、うまいこといかへんかったら腹立つわけよ。そのかわり、こっちに1人、あっちに1人、10人に声かけといたらね、こっちが「ノー」言ったってね、まあ1人ぐらいやったら損してもええわ。10人もおったら、そのうちどれか当たるわと思える。そういうふうにするとね、勉強でも仕事でも、1つぐらいうまいこといかんでも、落胆したり、夜寝られへんとかそういうことはなくなるでしょ。
西澤:
なるほど、私もこれからはそのテでいきます(笑)。
 今日は、お忙しいところどうもありがとうございました。
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