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1989年(平成元年)1月

入試そして将来への力

■受験を前に

 1月は1年のうちで最も空気の澄む月だといいます。季節風がチリを飛ばすためらしいのですが、確かに北風の吹く日には、遠くの山並みがはっきり見えて驚かされることがあります。
 この時期、いよいよ正念場を迎えた受験生の諸君も、澄んだ冬の大気のようにピンと張りのある心で、受験校という”山並み”を見詰め、着実に進んでほしいと思います。
 しかし実際には、焦りと不安の中で何も手につかない、といった人もあることと思います。そんな状態の時、「受験なんてなくなればいい」「受験さえなければ世の中はもっと良くなるのに」と、考えることもあるでしょう。
 また逆に、目前の入試突破に懸命になるあまり、「受験が人生のすべてだ」と思い込んでしまう人もあるかもしれません。

■人生の関門の一つとして

 しかし、そのどちらもが極論なのではないでしょうか。目前の入試だけに目を奪われることなく、少し冷静に考えてみませんか。
 入試が技術立国・日本とその繁栄を生み出す一原動力となったことは否定できない事実と言えます。その意味では、「入試が諸悪の根源」というのは、あまりにも性急な結論と言わざるを得ません。
 また入試が、避けては通れない大きな関門であることは確かなのですが、「入試が人生のすべて」というのも性急に過ぎる結論と言わざるを得ません。
 受験する君たちは、まだ人生のスタートラインについたばかりなのです。入試は、これから先、生きていく上で出合わなければならない多くの関門の一つに過ぎません。「大人になる」とは、ときには試行錯誤しながら、そして成功も失敗も味わいながら、それらの関門をどう乗り越えるか、自分の力で考えられるようになっていくことを言うのです。

■”心の合格”を目指そう

 受験が人生の中のハードルの一つに過ぎないなら、そして、それを飛び越えることが大人へ近付き、成長するための一つの関門なら、受験を「結果」でのみとらえることの非が明らかになるでしょう。
 成長への一つのステップであるという意味で受験は確かに大切です。しかし、結果だけに目を奪われ、「通りさえすればいい」という考えに陥るなら、受験を自立への基盤としてとらえるチャンスを逃してしまうことになってしまいます。
 大切なのは、勉強を自分のものとしてとらえ、自分の夢・目標の実現のためのものとして考えること。そして、受験した結果がどうであれ、自らの責任でそれをがっちりと受け止め、次のステップへ向かってどう進んでいくか考えること。
 それができたなら、合否にかかわらず、その人は人間的成長への一つのハードルを飛び越えることができたという意味で、”心の合格”を果たしたと言えるでしょう。

■ライバルは敵か?

 「受験戦争」という言葉は、世の中に定着してしまったようにみえます。そして、ともすれば「人を蹴落としてでも」というイメージとともに語られる言葉になっています。
 しかし、ここでも少し考えてみましょう。入試は、確かに厳しい試練です。しかし、それは自分が何点取れたかによって結果が決まるものであり、人に勝って決まるものではありません。
 入試が戦いだとするなら、それは自分との戦いであり、「自分が決めて納得した目標に対し、どれだけ力をつくせたか」が問われる戦いなのです。

■受験を成長の糧に

 人間は「体験的動物」だと言われます。さまざまな体験を通じ、ときには逆境も味わいながらでき上がっていく動物なのです。
 これからの人生の中では、思い通りにならない関門も待ち受けているにちがいありません。それに比べれば、自らが、自らのために、自発的に挑戦する受験など、何程のこともないはずです。
 自分の人生のどこに「受験」を位置付けるかを考え、受験を成長への糧として、したたかに飛び越えてほしいと思います。

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