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1989年(平成元年)4月号

未来に生きる君たちへ

■新しい季節を迎えて

 どこもかしこも春“一面の春”とでも表してみたいこの季節は、学生生活の新しい1ページが始まる時でもあります。
 入試を終えた諸君は、第一志望を突破した人、不本意な結果を受け止めなければならなかった人、さまざまな春を迎えたことと思います。
 後者の諸君の残念な気持ちを、私は私自身の痛みとして、ひしひしと感じます。しかし同時に、今の“しょっぱい気持ち”を忘れないように、とも言いたいのです。
 世の中には思い通りにならないことがある―それを早い時期に知ることができたのは、これからの人生を考えるとき、必ずプラスになると私は信じるからです。
 大人として生きていくとき、夢の実現に努力しても、うまくいかないことが、どんな人にも必ずあります。いくつかの夢は実現するかもしれません。しかし、思い通りにならないことが必ずあるのです。そんな苦しさの中で、また新しい夢が生まれてくる―それが「生きていく」ということではないでしょうか。
 そんな「生きる意味」を知ることができた―尊いことだと私は思うのです。
 また、努力がストレートに報いられ、第一志望校への思いを果たした人へ。喜びは大きいでしょう。しかし、そんな人にあえて、試験には運、ツキの要素も多分にあるのだぞ、と言いたいのです。
 合格したことだけに満足し、入学後の努力を忘れると、後には苦しい現実が待ち構えていることになります。
 これから入試に挑む人、新学生がスタートする人に対しては、「志望校に受かりたい、受かりたい」というプレッシャーで、生活が小さく、暗くなることだけは避けなさい、とアドバイスしたいと思います。
 むしろ、プレッシャーを楽しむぐらいの気持ちでいてほしいのです。家族の皆さんとともに、この1年いかに明るく、思い切って挑戦していくかという気持ちで進んでほしいのです。

■なぜ学びが必要か

 こんなに勉強して何になるのか―そんな思いにとらわれている人も、きっといることと思います。「今の子どもは、小さい時から勉強、勉強で大変」という声も聞かれます。
 しかし、本当のところ、勉強は何のためにするのでしょうか。ただ「合格するため」だけではないはずです。自分のために知識や考える力を付け、将来世の中に通用する力を付けるためのものではないでしょうか。
 勉強するのは確かに大変なことです。しかし、よく考えると思う存分勉強し、自分の力を高めていける国、時代はそう多くはないのです。
 君たちのお父さん、お母さんより少し年上の人たちの時代は、食べ物や遊び道具、勉強の環境にも恵まれなかった時代でした。そして今も、世界の各地に戦火の真っただ中に置かれた子どもたち、食べ物の欠乏に苦しむ子どもたちがいるのを忘れることはできません。
 それを考えるとき、思う存分勉強し、自分の力にしていける日本の子どもは幸せなのではないでしょうか。勉強や受験を暗い、我慢の時と考えるのではなく、志望校が自分に求める力を、限られた期間でどこまで身に着けていけるか、心の余裕を持って挑戦してほしいのです。
 勉強していく中で自分と戦い、弱さを鍛えて強くしていき、やがて社会にでた時には、身に着けた力を社会へ返していく―こんな考え方を持つことができれば、きっとその人はスケールの大きな人になっていくことでしょう。

■ゼミ生に望むこと

 四月からゼミの一年が始まります。新しい1年を迎えて、強調しておきたいこと、それは「人には“思い”が大事」ということです。「思い」とは言い換えれば「目標」であり、入試を迎える人、そうでない人、そして大人にとっても大切なものなのです。
 ゼミの始まりに当たって、ぜひそれぞれが、それぞれの「思い」=目標を持ってほしいと思うのです。そして勉強や生活習慣の目標以外にも何か、それぞれの趣味や才能を伸ばすこともぜひ考えてみてください。
 また、ゼミの大きな特徴の一つとして、いろいろな地域・学校の子が集まることが挙げられます。その中で、いろいろな友達の輪を広げていくことを、ぜひ考えてほしいのです。
 ふだんのゼミだけではなく、講習会には一般生が参加しますし、合宿には全国各地からの参加があります。これらの場で、いろいろな人と出会い、交流し、友達を作っていくのは素晴らしいことではないでしょうか。学校や家庭の中での限られた友人の枠を取りはらい、新しい出会いの世界へ踏み込んでいきましょう。
 最後に、ゼミ生として持ってほしい姿勢について。それは「先生にぶつかっていく」姿勢です。疑問点が出てきたら、先生にぶつかっていく、勉強や生活の上で壁に突き当たったら、率直に自分を先生にぶつけていく―こんな姿勢でゼミの生活を送ってほしいと思います。
 両親がゼミへ通わせてくださっていることを忘れず、勉強だけでなく、自分を大きくしていく場としてもゼミを位置付けていってください。

■未来は君たちの世界

 いよいよ21世紀まであと11年。君たちが、大人として生きていく時代は21世紀です。新しい世紀はどんな時代なのでしょうか。
 今、世界では4,50ヶ所でいまだ戦火が消えていません。原水爆の貯蔵量は、全人類が何度も死ぬぐらいの量に上っているといわれます。海や大気の汚染、南北問題も未解決です。こうして見ると、21世紀もまた、“すべての人にとって素晴らしい未来”とはいえないかもしれません。
君たちはその時代を生き抜いていかなければならないのです。
 しかし、考えてみれば過去の歴史の中でも、人々はさまざまな問題を抱え、ときには間違いも犯しながら、さまざまな選択をしてきたのではないでしょうか。現代はとりわけ変化の激しい時代であり、最早、過去に後戻りすることはできません。それなら、この変化がどうなっていくのか、また、どうすればいいのか―大波に乗るサーファーのように図太い気持ちで、新世紀に向かって進んでほしいのです。
 現代の日本は、国際化・情報化の大きな流れの中に置かれています。未来に向かって生きていく君たちは、この流れを避けることはできないでしょう。情報時代に生きる君たちは、まずコンピューターを利用できる力、コンピューターを利用できる物の考え方を身に着けてほしいと思います。
 国際化もこれからも一層進んでいくことでしょう。君たちには、海外の人々と何の抵抗もなしに接することのできる力を持ってほしいのです。
 そのためには、外国語の力は重要です。しかし、それにも増して、日本の文化や伝統を自信を持って主張できる力が必要でしょう。
 また、国際化・情報化の大波の中でこそ、人と自然との接点、人同士の触れ合いの心も忘れることはできません。
 世界が一つになっていく21世紀、君たちは「世界の中の日本」を考え、世界の国々もまた豊かになるよう考える人になってほしいのです。問題を解決し、もっともっといい世の中にしていきたい―そんな夢を持った、スケールの大きな人になってほしいと思います。

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