プリレコーディング

3月30日、新宿のスタジオT&Tで、いよいよプリレコーディングを開始した。

プリレコーディングとは、前回のメイキング「声優オーディション」でも記したとおり、
絵よりも先に声の吹き込みをして、その会話のスピードや息継ぎに合わせて、絵を描きあげ動かしていくこと。
長いセリフのところは、この手法がかなり効果を発揮してくれる。
なぜなら、セリフの途中で絵の口の動きとセリフが合わなくなるなどという、困ったこともなくなるから。思い出すと1作目や2作目では、どうしても息継ぎのタイミングが合わずに、急遽セリフを変えた箇所もあった。。。。
また、この手法、役者さんにとっても都合がいい。
出来上がった絵の口の動きやスピードに、無理に合わせようとしなくていいので、
芝居に集中できるというメリットがある
今回は、長いセリフの箇所だけプリレコの手法をとることにしたのである。
参考までに、アニメ作品でよく耳にする“アフレコ”はアフターレコーディングの略で、先に絵を描いて動いている映像に合わせながら、声を吹き込んでいく方法のこと。
「八月のシンフォニー」ではセリフの長さによって、プリレコとアフレコ、を両方使うことになった。

西澤監督の映画、シナリオは長いセリフ回しが特徴で、会話やセリフを通してメッセージを伝えるので、声の吹き込みは重要ポイントのひとつとなるのだ。

3人の吹き込みは順調にすすみました・・・・・・

東京は桜が満開、今日は日曜、ちょうど春休みと重なって、昨日からお花見の人で行楽地はごった返している。
私たちは、今日も朝からスタジオ入りで、今日は、主役のアイ役の福圓美里さん、お母さん役の高橋惠子さん、中井役の水島大宙さんの吹き込みを行う。

高橋惠子さんといえば、大女優さん。
なのに、気負ったところがなく、自然体でスタジオに入ってこられて、「今日はどうぞよろしくお願いします」と。
スタッフの緊張も、ふーっとほどけて、“さすが”です。
アニメの吹き込みは初めてとおっしゃって、マイクテストを始めて一言。
「なんかいいわね。新しいことって、新鮮で」とおっしゃったのです。

今日は、アイとお母さんの会話シーンを、実際に会話しながら録っていこうと考えていたのですが、2人は初顔合わせ。息が合うかどうかは未知数です。
もちろん、福圓さんは高橋さんとの共演に、緊張気味。 彼女もたくさんの芸暦を持っているし、声優だけでなく俳優さんとしても活躍しているけれど、やはり大女優さんの前で緊張を隠せないでいる。

2人の会話は全部で12シーン。とりあえずテストで自然に演じてもらうことに。
でも、「このテストも一応録音しておこう」と塩屋さん。これが後から成功することになる。
意外と最初のテイクが自然で一番いいことが多いのも、業界ではよくある話です。
今回はプリレコーディングだから、高橋さんも「絵がないんですね。それはやりやすいです」と。 お芝居(演技)そのものに集中することができます。

スタート直後、2人の声を聞いた監督以下、みんなぐっときました。
「うまい!」「ぴったりだ!」「すごくいい!」と、感嘆の声が上がりました。
本当に、2人の息もぴったりです。
途中、監督から、「福圓さん、このセリフは沈まないで、もっと強い意志でしっかりとした口調で言って」とか、「ちょっとスピードが早いので、ここは、少しゆっくりと話して」と指導も入って、シーンによっては3・4回のテイクをしたけれど、おおむね2,3回でOK.。
どんどん、早いスピードで吹き込みは進んで、予定の時間を大幅に短縮。
12のシーンを、なんと2時間半で録り終えたのでした。

実はこの2人の会話シーンは、すべて博多弁でした。
方言指導の方に吹き込んでもらったセリフを、前もってお渡ししていたのですが、2人とも、博多弁をなんなくこなし、とてもいい感じです。
会話を聞いていると、絵がない状態なのに逆にワーッと絵が浮かんできて、悲しい場面では、涙が止まりませんでした。
そのくらいすごい演技だったんです。

高橋さんは演技に安定感があって、どんな芝居もなんなくこなされていく。
女優さんて、すごいんだな〜って。うっとりします。
福圓さんは声に音色があるんです。しっかりした口調のセリフと、戸惑ったり悲しいセリフでは、ころっと音色を変えてくる。
高橋さんとの掛け合いにもスーッと自然に入っていくし、監督からの指示にも的確に応える、応用力があります。
一口に「そこはもっと意思をもったメッセージを伝える気持ちで言って」と言われても、ころあいが難しいと思うのですが、ほぼ1回で監督のイメージに合わせてくるんです。
オーディションで全員一致で決めた、この判断が正しかったことは、ここで十分に証明されました。
時には監督自ら録音室に入って、セリフを自分で言ってみせて、声の調子や抑揚を参考にしてもらうことも何度かありました。

予定より早く終了したので、お昼ごはんにデパートでお花見弁当を調達し、高橋さん、福圓さんを囲んで、監督や音響の塩屋さんとみんなでいただきました。

さて、水島さんのプリレコは1シーンのみ。
16時スタートの予定を1時間早めてもらってスタジオ入りをお願いしたのです。
それまでの予定があまりにも早くに終了したので。
彼、「おはようございます」と言って、スタジオに入ってきて、スタジオを後にするまでなんと滞在時間は10分、そのうちマイクの前には5分、と、すぐに終ってしまって・・・・

テストの後の本番1回でOKだったんですもの。思わず「え?もういいんですか?」とキョトンとする水島さん。
塩屋さんから、「残りのアフレコ部分は、次回です。今日はあんまり早くてすぐに済んだから、ギャラは来年まとめてね!」なんて冗談も飛び出るほど、とんとん拍子に終了しました。
水島さんのセリフには、間に4人のセリフが入るのですが、その部分を塩屋さんが掛け合いで読んでくれたので、リズム感よくお芝居が進んだのも早く録り終えた理由でしょう。。
塩屋翼さん、今回音響演出担当ですが、実は彼も有名な声優さんなのです。
「海のトリトン」のトリトン役とかね。

順調に進んだとはいえ、朝からスタジオに缶詰でのプリレコーディング、
ミキサーの高木さんほか、〜みなさんお疲れさまでした。
素晴らしい声とセリフを最大に演出するアニメを描かなくては。がんばろうね〜。

(文・写真 西澤真佐栄)