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私たちも10年、これからもあたたかな教育を

■心に残る教育を

 『自学自習』という言葉があります。これは“人に頼らず、自分から進んで学ぶ”ということです。“学ぶ”とは、単に教科力をつけるだけではなく、ものを見る目や選択する力、それから自分の人生の何に価値を置くかまで、トータルに身につけていくことです。
 私は、教育とはこの『自学自習』を支えていくものだと考えます。学ぶのは本人。自分の力でつかみとるのでなくては意味がありません。誰もその本人にはとって代われないのですから。けれども学ぶ意欲や過程に刺激を与えること、情報や体験を与えてやることはできます。本人が備えている能力を最大限に発揮できるように、「きっかけ」と「場」をつくっていくのが教育だと考えるのです。
 子どもたちと向きあうには方法論だけでなく、心で伝えるものがないと相手は反応してくれません。教育の場で人間対人間として信頼しあい、おたがいにぶつかりあう中で初めて、有意義な、心に残るものが生み出されていくはずです。

■「おまえも能開か、俺もや!」

 めざす学校に合格した子どもたちは、出身校を語るより出身塾を語りあうことでたがいに共感を抱くといいます。「あっ、おまえも能開か、俺もや!」という調子です。
 現在の自分を語ろうとするときに欠かせないもの、自分を支えてくれたもの、それらが塾での時間であり、先生との対話だった──目標をしぼって全力を尽くした中で、勉強以外にも何かを学びとった体験をもつ者同士だからこそ語りあえるし、心が通いあうのでしょう。“心の紐帯”(心と心を結びつけるもの)、いまの学校教育は、それをどこかに忘れてきてしまっているように思えます。教育の様々な問題点を、学校教育のせいだけにすることはできませんが、反面、民間だからこそ実践できる教育があることを確信するのです。私たちは単なる通過点としての塾でなく、一人ひとりがそこで何を得、何を学んだかを語れるような時間を生みだしていきたいと思うのです。

■信頼の輪の広がり

 能開センターの設立当初は、岡山から大阪まで新幹線を使って授業を受けに来てくれる子どもがいました。「能開の先生とみんなに会いたいから」というのです。そこで岡山に会場をつくったのが全国展開の第一歩です。すると今度は、高松から船で岡山に通ってくれる子どもがいる──学ぼうとする子どもたちがいる限り、そこに力を注ごうと努め、ようやく現在の50会場ができあがりました。それは能開の地域への広がりの足跡であると同時に、学ぶ子どもたちの心の輪の広がりでもあります。
 また、小学部のみで始まった能開センターが、中学部・幼児部・高校部と教育対象の層を広げ、現在は社会人教育にも着手しています。これは、教育すなわち『自学自習』の基本姿勢を伝えていくことは、幼児から社会人にいたるまで変わらぬものだとの考えにもとづいているのです。
 能開センターの歩みは今年で10年を迎えます。私たちの教育理念に共鳴してくれる人びとの広がりが、この10年間に大きく育ったことを本当にうれしく思います。

■10周年、新たな出発点に立って

 子どもたちの能力を最大限に引きだすために何をなすべきかの課題は、まだまだたくさんあります。新たな視点をもつことなしに前進はありません。
 能開ゼミではこれまで3年間にわたって学習システムの改変を行い、教科力を超えたトータルな実力を養うことに力を注いできました。
 また、子どもも小さな社会人。“生活者”としてものを見る目を育む必要性を強く感じます。『こども情報』誌の毎月の発行によって、社会の多様な変化に対応できる知恵を培う役割を担いたいと考えています。
 そして今後は、ゼミに通ってくる子どもたちだけでなく、子どもたちを取りまく社会とも幅広くつながりをもち、有用な情報を提供することを計画しています。
 まず2月に、東京においては黒柳徹子氏を招いた教育講演会を主催、大阪ではニューメディア研究会と情報産業センター共催の『’86民間教育フェア』に参加します。夏には愛媛県で開催される『テクノピア』に、“未来の子どもたちの教育文化”というテーマでパビリオンを出展する予定です。
 これまでも、そしてこれからも、教育を核に、より広く人の心をつなぎとめる能開センターでありたい──つぎに待つ10年に向けて大きく歩みだしたいと思います。

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