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30周年代表トーク 第2章「将来の展望」

福田:
前回の過去30年を振り返るお話に続きまして、ワオグループの「将来」につきて代表にお話をちょうだいします。
代表:
私が創業するまでの2つの会社で学んだことを前回の冒頭にお話しました。1つは営業の会社で、そこでは「とにかく結果を出さないと実社会では相手にされない」ことを教えられた。2つめの教育系の会社では、理念や理想の大切さを教わりました。ただ、この2つの会社は私が辞めてしばらくしてから上手くいかなくなりました。というのも、振り返ってみると、この2つの会社は両極端だったと思うんです。ただ、それぞれの会社のよさが両輪になって回っていく。私自身は、この2つの間で少し左寄りになったり右寄りになったり、コントロールをしながら当社を経営をしてきた、という実感をもっています。

■集合にも個別にもやるべきことは多い

代表:
さて、いま非常に大きく時代が変化している。代表的なのは少子化ですよね。そのようななかでゆとり教育の見直し、教育改革が矢継ぎ早に出てきています。それに伴う教育行政の手の打ち方の変化によって世の中が大きく変わる可能性があります。昭和40年代、東京都で行われた学校群制度がその好例です。昭和30年代から40年代初め、東大の合格実績はほとんど都立高校が上位を占めていました。ベスト10で都立以外はたぶん教育大付属(いまの筑波大付属)と開成くらいでした。ところが、エリアが狭まり、私の出身校の両国高校も5つの区からできる子が来ていたのに、ぐっと狭まったためいい子が集まらない。それによって両国高校は、見事にダメになりました。いまは、都立が教育改革の流れで復活し少しはよくなりましたが、1番ダメな時は東大に1人ないし2人という状況。同じように京都の蜷川府政、社会党系の知事さんですが、彼が、受験教育全体を平等にやろうという思想で高校のレベルを平坦にしてしまった。要するに、高校を受験教育の場にしない――それまで京都には京大、同志社、立命館に多数合格させるいい高校がいっぱいあったんです。それらが全部ダメになりました。このように行政の動きに、教育はモロに影響を受けるわけです。
 そこで、われわれのこの先ですけど、「これまでの歩み」でも言ったように40年前、いまのような塾はなかったんですよ。それでも公立から東大に、そんな気運が日本にはありました。対して現代ですが、当時と決定的に違うのは、やはり少子化。そのころは子どもの数がどんどん増えていたが、いまは逆に減っている。子どもが減っていくなかで、10年後20年後の塾の姿をわれわれは真剣に考えていかないといけません。
 とはいえ、正直、将来のことはわかりにくい。相当のアゲンストが吹くこと、たとえばいまいった教育行政の変化で、学校が受験も含めすべてを対応しようとなる可能性もあります。実際、すでに私学の一部はそうなっていますよね。先生が夜10時まで教えようとか、土曜日も教えるとか。そうなると、塾に行く時間はなくなる。われわれが、いい講座をつくり、いい先生を配置しても生徒が来なくなります。そういった意味では、われわれの力だけではどうにも覆すことはできないものはある。まあ、そういう枠はこれからはめられてくる可能性はあるが、そんななかでやることはきちっとやらないといけないわけです。
 同時に、パイが小さくなるかもしれない。そのなかで、存在意義をどう見出していくか。競争に勝ち残らないとしょうがないわけですね。そのために、何をするかということがまず1つ。もう1つ、いままでの塾の周辺の分野、たとえば家庭でいろんな勉強ができるネットでの配信とか生涯学習とか、後でも詳しく触れますけれども学校とのいろんなビジネスの可能性とかも考えていく必要があると思います。
福田:
いま代表がおっしゃられた逆風の影響を一番受けやすいのは、これまで軸足でした集合教育かもしれませんね。
代表:
ええ。ただ、時代がどうあっても教室があって黒板があって先生がいるという教育形態がなくなるとは思えません。そのとき、やはりいかによい先生のよい授業が受けられるかがキーになります。そういった意味で現場のみなさんは、鍛錬してスーパー講師と呼ばれるよう頑張ってください。それともう1つ、いま大阪を中心にそういう方向でやってきていると思いますが、よく大橋さんが言う“接近戦”、トータルな面で子どもたち一人ひとりの目標に対応する――それを、集合できちっとやってもらいたい。集合についてはそのように思っています。あと、予備校についてはまだ出てない県もたくさんあり、チャンスがあれば出していくべきだと思っていますね。
 一方、個別ですが、前回も言ったように当社は少し出遅れたわけで、いまシステムも含めて急ピッチで進めています。ほとんどの補習塾は個別化していますよね。むしろ、個別のほうが集合以上に競争が厳しいと言えなくもありません。まして、個別というのは小さく出していくでしょ。モロに従来の補習塾・個人塾とぶつかるわけです。1教室当たり本当は70~100人いけばいいが、そこまでいかないケースもあるかなあ、と。したがって、いま東京で実験的にやっているように、Axisの教室をコンビニ化する。つまりサービスを他の塾よりも徹底する。教室にいろんな機能を備えるという形で。全国一斉にといってもなかなか態勢が整っていないので、東京で実験をしているわけです。
福田:
たとえば、どんな実験をしているのですか?
代表:
1つは、365日塾を開ける。お子さんのニーズはほんとに多様。とくに東京では共働きが多いですし。そうすると盆とか正月でも、子どもが家で勉強するのが難しいというケースもあるわけです。それからもう1つ、個別のAxisは1対1、1対2指導だけじゃなく、スタッドをやれないかな、と考えています。スタッドをまだやってない地域では、幼児からとくに小学生低学年を中心に、たとえば「月・木」とかに限ってやることもできるんです。スダッドから個別に入ってくる人も出てくるかもしれない。さらに、資格の講座を曜日限定とか時間限定でやろう、と。午前中から3時ぐらいまで、その時間は塾は空いていますから、そこを活用するわけです。あるいは土曜日とか日曜日とかね。資格の勉強を土日で一気にやろうという人も多いでしょう。このように教室は小さいが、当社の場合はすべての講座がコンテンツになっているので、いろんな方に来てもらえるようにはできます。それによって1つの教室の売上を高めていく。こういう教室のコンビニ化ということが、1つの考え方として成り立つと思っています。
 それから家庭教師。以前から言っていますが、私はネットを使った在宅学習というのは家庭教師が一番早いだろうと考えています。既にトライなんかもまさに“トライ”している。実際、家庭教師を迎える家のほうも大変ですよね、お掃除をしたりお茶を出したり……。先生もなかなか大変なんです。これがネット上でやれてしまえば、非常にいい。加えて、われわれにはアノト・システムがあります。テレビ会議システムとアノトで、書いたものがすぐやり取りできるとなれば、在宅の仕組みができ上がっていく。家庭教師は、いったんは各県でやっていきますが、次の段階として在宅を睨んでやっていきます。さらに、うちにはスタッドの教材がありますから、これをアノト化してネット上でやりとりすれば、公文さんと同じような仕組みをネットでできるかもしれませんね。
 このように塾という分野に限っても、集合、個別、家庭教師それぞれにまだまだチャレンジしないといけないことがたくさんあります。

■コンテンツフォルダーを目指して

福田:
ところで、当社では高校部を中心に映像コンテンツの開発を進めています。一方で映像と言えば東進衛星が強い。率直にお伺いするのですが、当社も東進の仕組みを入れるかどうか検討された時期があるとお聞きしています。結果的に、そうならなかったのはどのようなお考えからなのでしょう。
代表:
東進(会社名はナガセ)の永瀬昭幸社長とはもともと親しくしていたので、ずいぶん東進衛星の方が営業に来られました。だから、当然、選択肢の1つとしてあった。しかし、それでは多数のなかの1つになってしまうわけです。これからはネットの時代になる。それらコンテンツをネットに載せることもわれわれにはできない。さらに、コンテンツの制作能力がなくなり、次の時代への対応力が弱まる。そのように考え、「東進の仕組みは入れない、むしろ独自に開発をしていく」となったのです。
 古藤事務所や、これから組もうとしている大阪のベリタスさんとか、大学受験のトップランクの先生を揃えているところと一緒にやるわけですけれども、その場合もネット上でも使うことを前提にやっていきます。ただ、ネットで教育コンテンツを流す場合に、NHKのテレビ講座のように、タダでないと見てもらえないかもしれません。映像はタダだという意識が日本人はありますから。そこのところを、どうするか。その際、ヒントになるのは昔の旺文社のラジオ講座。若い人は知らないかもしれないが、大学受験では人気のあった仕組みで、ラジオからいろんな有名な先生の講義が流れてきました。その教材を、本屋に買いに行くんです。教材なしに、ただ話だけ聞いてもわからないわけです。いずれにしろ、そういうものも参考にしながら、ネット教育の仕組みを考えなくてはいけません。
福田:
ゆとり教育が学力低下に繋がり、最近ではリメディアルという言葉も聞こえるようになりました。これは、救済、補修、改善というような意味ですが、とにかく大学生の学力低下が著しい。それに対して、当社もいち早くこの分野に力を入れている。現状を含めてリメディアルについてのお考えをお聞かせください。
代表:
世の中は、ますます複雑・高度化しています。当然、知識の量も質も上がっていくでしょう。ところが、大学教育は昔よりもむしろ低下。また、大学に入るのも推薦であったりAOであったり、勉強があまり重視されない試験が増えています。昔の大学が、いまで言えば大学院に相当するぐらいになっている……そんな状況なんです。
 当然、大学では、授業のレベルを維持するために、学力の低い学生の底上げを図る。そこで、当社のもつコンテンツが活用される。高校部の映像教育などを使って、学生に大学に入ってから勉強してもらおうというわけです。このリメディアル教育は、かなりの大学が導入せざるを得ないでしょう。いまでも、リメディアルの予算で7000万円も取っている大学があるそうです。もっとも、当社の営業態勢がまだ十分ではない。これを整備して、いまの10倍ぐらいにもっていきたいと思っています。一方、すでに一部で始めている大学に先生を派遣する事業のほうも、この関係性を活かして伸ばしていけるでしょう。
 ついでにいうと、いまの能開部門の恵川さんを中心に近畿の私学にいろいろ出入りさせてもらい、受験だけでなく営業もさせてもらっています。そうした関係性のなかから、いろいろな仕事も生まれています。ここのパイはそうとう増やしていけるのではないか。とはいえ、リメディアルというのがたぶん中核になるでしょうが……。
福田:
ところで、先ほど在宅教育のところで、アノトの話が出ました。リメディアルもそうですが、当社は非常に進んだ取り組みをしていますね。
代表:
最初はアノトの研究会に参加しないかという話だったのですが、それを聞いたとき、ほとんど直感的に「ネット教育の中心になるだろう」と判断したものです。いまのところアノトの売上はしれています。採点だけだし。この採点も文科省の全国テストには採用されなかったが、杉並区では使ってもらえるようになると思います。いずれにしても、最終的には在宅の仕組みにアノトを活用しないと。そこが、当社の一番の強みになるくらいにね。どれくらいのビジネスになるのか。実は、楽しみにもしています。

■<連鎖>と<循環>の教育

福田:
その一方で、現場はどういう力をつけていく必要があるのか。先にも少しお話をされていましたが、将来の現場を占ううえでも改めてご意見をお聞かせください。
代表:
まず、現場にしかできない部分が存在する、ということが大前提としてあります。Axisでもたとえば石川や福井、長野のように1校だけという県があります。1校だけでは話になりません。最低でもトライアングルというか3~4校でネットしないと成果も上がらないと思う。そのような基盤づくりを全県で行うことが重要でしょう。それに、直営で統制のとれた運営ができる教育現場を全県にもつということは、これからいろいろなビジネスをするうえで大きな力になると思うし、他の塾がいまから直営方式で全県に、というのはなかなか難しい。当社は非常にいい立場にいる、ということを知っておいてください。
 さて、先ほど「接近戦が大事だ」と言いましたけど、小学部については各地域に附属中学校というのがありますよね、われわれが地盤をつくったところでは必ず受験実績を上げてきました。その合格実績をいま以上に上げることが必要です。それから、冒頭で述べた教育改革の影響は、公立高校の旧ナンバースクールの復活につながると思われます。したがって、各県における1番2番3番ぐらいの高校の入試実績を築く、そういう対応が絶対に必要になります。もっとも、Axisの場合は、各県において県立高校にどのくらいの割合で入れるかという数字を弾き出せる試験がありません。そこで、過去問を徹底的に分析し組み合わせ、即席の入試の予想問題をつくり、それで何点取れたら受かった、何点以下なら受からなかった、そういうデータを蓄積する必要があります。いずれにしろ、Axisの場合は1~3番よりももう少し下の校まで対応しないといけないかもしれませんね。
福田:
あと力を入れなくてはいけない部分としてはコーチングがあります。
代表:
ええ。これから力を入れていかないといけないのは、一人ずつに対する入試を重点に置いたコンサルティング、そしてコーチングです。
 そして大学入試においては、当社が大手予備校とか地域の競合に対抗しようとすれば、全県における国立旧1期校への対策をしっかりしなくてはいけません。たとえば島根に出した場合は島根大学については強いとか。2次対策も含めてちゃんと研究がなされていて、実績も高いことが絶対条件になるでしょう。いずれにしても全県に出すということで、いま以上にきちんとした実績を積み上げなくてはいけません。
 そのうえに立って、私はいま“循環”を、一つの重要な概念ととらえています。“連鎖”という考え方と“循環”という考え方……。
 大学までの教育についてさまざまな情報をもって、なおかつ地元の国立大学の学生がインストラクターや家庭教師として集まる。そこからまた、次のビジネスも考えられていくのかな、と。たとえば、大学はさまざまな研究をしていますから、たとえば島根大学に面白い研究をしている先生がいるという情報が学生から入ってくる。その先生とタイアップして、次の商品開発をやっていこうとかね。いまも一部そういうことをやっていますが、もっと全国に広げていくことはできる。それと当社で研究員を採用するのではなく、研究そのものを大学との関係性でやっていくということも可能になります。お金も大してかからない。せいぜい500万~1000万円もあれば、小さな連携はできるんです。
 ことほど左様に拠点をもつということは、様々なビジネス展開が可能になってくると思います。ですから、いま地域を頑張ってやっているみなさん、それから、「これから自分で“城”を持ちたいな」という人――まだ出店してない地域はたくさんありますから、ぜひそういうところに行き、志をもって、頑張って欲しい。実は、エンターテインメント事業も「地域の教育の輪」を築くという目的があるわけです。教育の外側に、エンターテインメントの輪ができていくと、とてもおもしろい。要は、町興しをしようとする人とか、映画に興味がある人とか、音楽が好きな人とか、そういう人との関係を築き広がりをもたせる。塾だけのためにチラシをつくり、生徒募集ばっかりやるのではなく、そういう輪の中から生徒の広がりが、口コミもできていく。そういうことも可能でしょう。

■アニメは将来につながる一つの種

福田:
いまちょうどエンタテイメントの話も出てきましたが、それと在宅、eラーニング、このあたりが代表がよく言われる未来戦略かな、と思うのですが、これらをどう融合するのか。そのあたり、どのようなイメージをお持ちなのでしょう。
代表:
アニメーションをやったのは、第一に日本のアニメが世界に通用するという確信があったからです。実際『NITABOH』は、3つの海外の映画祭で表彰をされた。それ以外にもいろんなところで、招待上映されています。
 少し誤解のないように言っておくと、いま私と家内とで世界のいろんな映画祭に行っていますが、これには会社の経費の分と自己経費の分がある。たとえば、この間の釜山国際映画祭は自費で行きました。また、ヨーロッパのリヨンというところで招待されてまして、こちらは行き帰りの飛行機と3日分の宿賃が招待。ただ、これはフランス人のカイエくん(通訳として同行)の費用に充て、私たちは自費で参加しました。まだまだエンタメは儲かっていない。だから、会社分と個人分を半々ぐらいでやっていこうと考えています。
 さて、私はアニメを通してワオという会社が世界に知られるのはとても面白いことだな、と思っています。私一人の力は知れていますが、若い人たちがどんどん出てきて、世界に通用するようなもので勝負する。そういうふうになったとき、ワオという名前が通っていれば……。それともう1つ、これも以前から繰り返し述べていますが、教育コンテンツは必ず世界に通用するようになります。とくに理数系の教育ではね。われわれのコンテンツを世界配信することも決して夢ではありません。実際、それで成功している例もあって、たとえば「ニュートン」という雑誌・・・・・・。
福田:
有名な科学雑誌ですよね。
代表:
ええ、少し前の資料ですが、日本では約30万部発行されている。1冊1000円だから、年間の売上は36億円にもなります。おそらく制作費・広告費に10億、20億もかけていないでしょう。だから、かなりの儲けになります。なおかつ、フランクフルトの見本市が縁で、5ヶ国語に翻訳されています。これはすごいことです。ただ、これは科学という分野だから、できるのでしょうね。科学というのは、世界共通なんですよ。ですから当社も理科実験とか、重要な科学上の発明・発見というのをアニメ化しようというプロジェクトを進めています。いずれにしろ、ある部分のコンテンツは世界共通になるだろうと思っているので、韓国や中国、ベトナムとか、とりあえずアジア関係だけにでも、ワオのコンテンツのネットをつくりたい。それができていくと、非常に強くなるんじゃないかなと思っています。
 また、これは思わぬ収穫でしたが、アニメは人材募集の面で非常に大きな効果を発揮しています。教育というとちょっと堅苦しいけど、やはりエンタメというとみんなが明るくなる、楽しくなる。そういうところから、新卒の学生の応募が大幅に増えたのでしょう。まあ、あまり無茶はできないけれども、当社の将来を考えたらエンタメの部分で、何かを仕掛けていくこともできなくはない。そういうのが得意な人もいるでしょう。先にも言ったように、企業は変化対応、変わっていくわけです。そういう意味では、このエンタメが1つの種を撒くことになっているのかなあ、と思いますね。

■常に成長する人間になろう!

福田:
なるほど。そろそろ終わりの時間が近づいてきました。最後に従業員に期待されること、メッセージをちょうだいできればと思っています。
代表:
「これまでの歩み」でも少しお話をしたと思いますが、自分の周りの事柄を発展させるイメージ、それをもってもらいたい。そして、行動。それもスピードを出して。もちろん、いろいろな部署から上がってくるものを一気にやることができませんから当然、優先順位は本社でつけることになりますが、とりあえずの計画と実行はスピードを上げてやって欲しいと思います。次に、計画のところややり始めはいいんだけど、最後の詰め、やり切るという面で当社はやや弱いように思われます。これでできたかなと思っても、本当は3割か4割ということが往々にしてあるわけです。そういうことを前提にしたうえで、これからのことで少しお話しましょう。
 われわれは子どもたちから先生と呼ばれる存在ですよね。私もそうでした。その先生と呼ばれるに当たって私が心がけていたのは、「目の前の子どもたちは必ず成長していく。どこかで自分を追い抜いていくかも知れない。しかし、追い抜かれないよう、成長した彼らと顔を合わせても相変わらず先生と呼ばれるような存在になろう。そのくらいの力を自分でつけないといけない」と。かつての先生が久しぶりにあって小さく見えるという経験は、多くの人がされているのではないでしょうか。でも、やはり先生と呼ばれる限り、いつまでも成長する人間でなくてはいけないと思うので。
 だからこそ、「すすんで可能性に挑み、その体験を通して自らの世界を拡げよ」という社訓をつくった。要するに、チャレンジすることで自分の世界が広がる――。それから私自身の、よく座右の銘は何ですかと聞かれるんですけど、いつも「自燈明」と答えることにしています。「自燈明」は、自分が自分の道を、灯りを照らして切り開いていく、という意味なんですが、先生と呼ばれる人間は、私はやはりそうであるべきだと思うんです。翻って組織の一人ひとりが自分の世界を広げれば、当然1+1が3になったり4になったりするわけです。ところが、こんな程度だよなあと目標がなくなると1+1が2にもならない。個人も、あとは定年を待つばかりという情けないことになってしまします。そういう風にならないよう、みんなで頑張っていきましょう。
 あとこれは、ご報告になるのでしょうが、30年を迎え、社員の平均年齢も高くなって、会社全体が平凡になってきている、と私は感じています。私自身も、あんまり長く社長をやっているので、老害にならないようにしないと(笑)。いずれにしろ、いままでの成功体験ではだめだぞ、というのは福田さんを含めたいろいろな人から出ています。そこで、中期計画をいま福田さんを中心につくってもらっています。けっこう、面白い意見も多いんですよ。それらに応えられるような、活気ある組織にしていきたい。そうした取り組みを、30周年を機にやっていきたいな、と。経営に関しての私の最後の努めになるかもしれません。だからこそ、頑張っていきたいなと思っております。
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