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1989年(平成元年)5月号

この季節をどう過ごす? 〜何事も百パーセントはない あせらず夏への歩みを〜

■自己診断をしてみよう

 桜の季節は毎年いろいろな思い出を残して去っていきます。遠く、かすんだように見える桜の花に誘われて、大阪城まで散歩した時のこと―。
 桜が咲く広い城内の片隅に、ひっそりと淀君のお墓があるのを、私は見つけました。淀君とは、豊臣秀頼の母で、秀頼とともに大阪夏の陣で自害した人です。
 自害の場所とされる所に、ひそやかに建てられたお墓―。そこにも桜が咲いていました。四百年近く前にも秀吉や秀頼、淀君たちは桜の花を見ていたんだなあ―その時、ふと私はこんな感慨にとらわれたのです。
 どうやら桜の花には、私たちの心に何かしら思いを呼び起こす、特別な力があるようです。今年、桜の花たちは、君たちの心にどんなことを残していったのでしょうか。
 そして季節は今、急ぎ足で初夏へ。入学・進級から一ヶ月半を過ぎ、夏の気配が日に日に近付いてきます。新生活が一段落したこの時期、一度自分の生活や学習の流れを「自己診断」してみましょう。
 生活のリズムはどうか?体調はどうか?勉強は最初の計画通りか?これらを自分でチェックしてみて、七、八割満足いくようなら、自信を持って夏に向かい、突き進んでほしいと思います。何事も「百パーセント」はないのです。少しぐらいの事に落ち込まず、自分が何割くらいの状態か、落ち着いて判断するようにしましょう。

■「完全」はあり得ない

 今の自分の状態は良くないな、と悩んでいる人へ。今が大事な時期です。決して必要以上に悪く考えてはいけません。不安をふくらませて、あれこれと参考書・問題集を替えたり、むやみに計画を代えたりする―こんな“チョコマカ勉強”は絶対に避けるべきです。
 調子の悪いときは、どうすればよいか―自分が最初に決めた目標、そして、その実現のために立てた計画に一度戻ってみるべきです。
 まず、「目標」をしっかり頭に刻み付けた上で、目標達成のために立てた計画に無駄や無理がないか、見直してみましょう。計画の中に、そんな欲張り過ぎたところがあれば、思い切って修正することです。
 そして、七、八割はやれるような計画にしていきましょう。受験生だけではなく、人間すべてにとって、「百パーセント」はありえません。計画と現実の食い違い、そこから生まれる焦り・悩み―それがあるのが自然な姿なのです。焦りや悩みと悪戦苦闘しながら、自分で打開の道を考えていくこと、これが正に「受験」であり、自分を成長させていくカギでもあります。
 リズムが狂ってしまって、何をどうしたらいいか分からない―こんな状態になることもあるかと思います。こんなときは「最低限これはやる」という事柄を繰り返しやることです。人間には「復元力」というものがあります。やることを思い切り絞り込んでいるうちに、気力は必ず回復していきます。

■「よく学び、よく遊べ」

 受験生にとっては、この連休も休みどころではなかったと思いますが、その他の人は、どこかへ出掛けたり、家族でゆっくり過ごした人が多いことでしょう。
 昔の人は「よく遊び、よく学べ」ということわざを残しています。学びとともに“遊び心”の重要さも、知っていたのでしょうか。そして現代は再び、「人間らしく生きるために、また、創造的な仕事のためにも“遊び心”が大切」―そんな時代になりつつあります。
 ゼミ生の諸君も、忙しい勉強時間の中から、自分の可能性・世界を一層広げていくために“遊び心”を生かす時間を作ってほしいと思います。それには、まず、好奇心を持ち、休み時間を生かして、限られた世界を飛び出して、違う学校・違う地域、そしてできれば違う国の子どもたちと触れ合っていきましょう。
 さまざまな機会を生かして、ふだんとは違う風景や生活を味わうのも大切なことです。また、本やテレビ等を通じて、他の人々が余暇を通じて、どんなふうに心を豊にしているのか知るのもいいでしょう。
 ゼミ生の諸君も、この連休で、さまざまな「遊び」を経験したことと思いますが、一番気を付けなければならないのは、「学び」も「遊び」も、ともにダラダラしたものになってしまうことです。「目標」を決めて、準備をしていくという意味では、「遊び」もまた「学び」に似ているのであり、ただ何となく遊ぶというのでは、新しい自分の世界を広げ、心を豊にしていく創造的な「遊び」にはならないでしょう。
 受験まで、まだ時間がある人にとっては、今の時期は受験も含めた将来の目標に、ゆっくりと思いを巡らせる時だと思います。学校生活に、また、ゼミを含めた校外生活に、そして「遊び」にも一生懸命取り組み、広い視野で将来を見詰めてほしいものです。

■夏に向けて準備を

 夏休みまで、あと二ヶ月余り。夏休みは受験生にとってはもちろんのこと、自分の世界を広げていく機会という意味でも大切な時です。
 受験生について言えば、夏は前半の大きなヤマ場であり、難関志望の場合は、夏休み後半に志望校の入試問題にぶつかってみて五、六割できるかどうかが一つのポイントになります。
 今の時期は、そんな夏休みにいかに力を発揮するかを考え、休みまでの二ヶ月間、体調・生活リズムを組み立てて、計画を実行していく時期なのです。マラソン選手が試合当日に向かって何ヶ月も前からハードな練習をし、チェックポイントを作るように、またプロ野球の開幕選手が試合に向かって調整していくように、この二ヶ月間を大切にしてほしいと思います。勝負は準備の段階で決まることも多いのです。
 焦ることなく、「夏休みになったら存分に力を発揮するんだ」―こんな気持ちで、着実に夏への歩みを進めてほしいと思います。

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