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1989年(平成元年)10・11月号

実りの季節の中で〜冬休みまでどう過ごすか 受験生には大切な時期〜

■“心の中の入試体験”をしよう

 「秋空や高きは深き水の色」(松根東洋城)。見慣れた空も高く高く感じられるこの季節、運動会・文化祭・遠足等の秋の行事は、ほとんどの学校で終わっていることと思います。
 いろいろな学校行事で思いっ切り羽を広げた人も、そろそろ心を落ち着けて勉強に気持ちを切り替える時でしょう。
 特に受験生の諸君は、非常に重要な時期を迎えていることを自覚してほしいと思います。「この時期をどんなふうに過ごして冬休みに入るか」が直接、合否にかかわっているといっても過言ではないのです。
 いくつかのポイントがあります。まず一つは、コンディションを維持する意味で、入試の本番を想定して何回かの試験に臨む必要があります。十一・一月の公開試験を入試本番に見たてて、「試験場への道のりは?試験場へは何分前に入るか?」等を、具体的に自分で考えてほしいと思います。
 入試の会場には独特の雰囲気がありますが、そんな雰囲気の中で自分を失わないように“心の中の入試体験”を繰り返すのが大切です。スポーツ選手も大きな大会に向けて何度も練習試合を繰り返し、大会が近付くにつれて練習試合は真剣味を帯びてくるものなのです。

■苦手科目・分野克服のために

 具体的な学習の面は、志望校の入試科目に沿って、苦手科目・苦手分野をチェックしていく必要があります。「得意科目で得点するからいいや」と思う人があるかもしれませんが、得意科目は入試問題が易しい場合、ほとんど差がつかないものです。逆に、苦手科目は傾向によって全然できない場合も考えられます。
 その意味でも、冬休みまでのこの時期、苦手科目・分野をカバーする必要があるのです。
 苦手なものに対しては、どうしても「逃げたい」という気持ちが働き、日ごろ接する機会が少なくなっているものです。苦手克服のためには、「とにかく慣れること」―これが第一です。
 参考書・問題集を、とにかく最後の一ページまで“めくる”体験をすること。苦手科目はていねいにやろうとすると挫折しやすいものです。一回目は、無理に分かろうとせずに最後まで目を通し、二回目から「分かった問題」に×、「分からない・覚えていない問題」に○を付けていきましょう。
 問題を分類する気持ちで、しかも軽い気持ちでやっていくのがコツです。三回目、四回目になってから、「○」がついた問題を頭に入れ、覚えていくようにしましょう。
 要は、「何が苦手科目・分野か?」をきちんと整理し、冬休み前までなら冬休み前までというようにきげんを決めて、期限までに参考書・問題集を繰り返しやることが大切なのです。
 参考書・問題集に触れる機会が多ければ多いほど、苦手科目の垣根は取り払われていくのですが、もし使っている参考書・問題集にどうしても親しみが持てそうにないときは、思い切ってやり易そうなものに変えるのも一つの方法です。

■スランプはだれにでもある

 次にこの時期、気をつけたいことはスランプです。勉強も体調と同じで、調子のいい時も悪いときもあるのですが、このスランプを克服するには、どうすればいいのでしょうか。
 まず、スランプにぶつかっているのは自分だけではないということを知ってほしいと思います。スランプは決して「自分だけ」の「特別なこと」ではないのです。
 問題は「調子が悪いな」と感じ始めた時に、どんなふうに上向きにしていくかですが、野球の選手を例にとると、スランプに陥ったときにとる方法は大きく二つに分けられます。一つはパッと気分転換する方法。もう一つは、原点に返り、素振りをコツコツ繰り返したりして基本練習を反復する方法です。
 勉強でいうと前者の場合、音楽や趣味で気を晴らすことになりますが、今の時期を考えると、勉強を離れるのは難しいですから、やはり後者の方法を勧めたいと思います。
 調子が悪くてもじっと我慢し、あせりがちな気持ちを抑えて、基本的なものを絞り込み、繰り返しやっていきましょう。
 「スランプ」とは、「思い」に現実がそぐわないところから起こります。つまり「思い」がないとスランプもないのです。その意味でスランプに陥る人は、意識が高く優秀な人だと言えるでしょう。
 目前の入試だけに目を奪われてしまうのではなく、長い人生の中の、思い通りにならないことの一つとしてスランプをとらえ、乗り越えていこう、挑戦していこうという気持ちで立ち向かってほしいと思います。

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