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1990年(平成2年)1月号

21世紀の足音が聞こえる

■いよいよ九十年代が始まった

 会員の皆さん。新年おめでとうございます。いよいよ九十年代の幕開き、二十一世紀が間近に感じられてくる年になりました。歴史が刻々と変わっていくかのように思われる今、広い視野を持って背筋をピンと伸ばし、一日一日を一生懸命に生きてほしいと思います。
 昨年は国内・国外ともに本当にいろいろな事がありました。何年か何十年か経って歴史を振り返る時、おそらく「1989年」は記念すべき年として位置付けられるのではないでしょうか。
 国内では昭和天皇崩御、戦後最大のスターといわれた美空ひばりさんの死去、一代にして松下王国を築き上げ、“経営の神様”といわれた松下幸之助氏の死去が続き、「昭和」という一時代が終わり、いやおうなしに新しい時代へ入っていくことを実感させられました。
 国際的には中国の天安門事件、ソ連のペレストロイカに端を発する東欧諸国の民主化運動、「ベルリンの壁」崩壊等がありました。
 戦後長らく続いてきた米ソ二極構造、あるいは西側対東側の構造が急激に崩れ、“新しい融合・協調”の時代に向かって大きく歩み始めた―それが1989年の国際社会でした。
 それでは九十年代はどんな世界になるのか―大変難しい問題です。ペレストロイカは成功するか、東西両ドイツの統一はあるのか、EC(ヨーロッパ共同体)の統合は成功するのか、日米関係は、そして南北問題はどうなっていくのか、あるいは地球環境破壊の問題に対し人間の英知がどこまで発揮されるか、核兵器の廃絶はいつのことなのか―数々の問題が二十一世紀に向けて横たわっています。
 経済を中心にして世界が複雑にからみ合い、影響し合っている現代の世界では、世界の大変化・大変動が巡り巡って私たちの日常生活にまで影響してくるのです。

■豊かな時代の中で望むこと

 今、日本は戦後四十年を過ぎて、経済は繁栄し平和な状態が続いています。数多くの課題は残されていますが、総じて見れば最も恵まれたくにの一つに数えられるのは間違いないでしょう。
 しかし、今の状態を当たり前のものだと思ってはいけないのではないでしょうか。世界には貧困や飢えが存在し、戦いが日常のことになっている国々もたくさんある―そうしたことに想像力を働かせ、現在の日本の状況に対して感謝の気持ちを持つ必要があると思います。
 戦火のさなかベトナムをはじめ、世界のさまざまな地域の生活や子どもたちを見てこられた作家の桐島洋子先生は、日本の子どもたちについて、「豊かさと平和に慣れ切っていて、ちょっと厳しい環境になると生きていけないのではないだろうか」とおっしゃっていました。
 世界の今までの仕組みやバランスが大きく狂った場合、現在の日本の豊かさや平和さが根底から覆ることはあり得ます。起こってほしくはないことですが、そんなことも考えておかなくてはならないと思います。個人の健康面も含めて、人や人を取り巻く環境にはいろいろな事が起こるんだということを想像力を働かせ、何か起こったときに備える―今年からの十年、生きる上でそんな態度が必要になってくるでしょう。
 九十年代、つまり二十世紀末は、変化の激しい時代であり、予測もつかないことが起こってくるに違いありません。しかも、それらの変化は、最終的に日常生活に影響する要因をはらんでいるのです。
 そんな激しい変化の時代に生きる私たちには、次のような姿勢も要求されてくるでしょう。まず、変化そのものに興味と関心を持ち、変化をキャッチする姿勢、そして時には立ち止まり、変化の根本にどんなことがあるのか、原理・原則は何なのか考えてみること。これらの習慣をつけるのは楽しいことでもあるでしょう。
 現代日本の平和や豊かさを“一人占め”するのではなく、この十年の間に会員生の皆さんが成長し、世界全体・人類全体の視点で何かできるか考え、二十一世紀にはばたいていくことを楽しみにしたいと思います。

■チャンスが与えられている

 目を身近な所に戻してみましょう。いよいよ進学・進級が間近に迫ってきました。日々、かなり緊張して過ごしていることと思います。中には落ち込んだり、努力が空回りしている人があるかもしれません。
 そんな時こそ、目の前の参考書から少し視線を上げて、現在の世界や日本、九十年代について大きく思いを巡らせてみる必要があるのです。豊かさ、平和の中で受験を目指せること、勉強できること―つまり自分の可能性を広げ、自分自身にとっての力をつけるチャンスが与えられていること、そして現在の日本ではチャンスを生かせる場も多いこと、それらのことに感謝しなければならないのではないでしょうか。
 最後に、みんな計画を立てていると思いますが、あいまいに「あれもこれも」より、簡単な事でもいい、「これを一つやり切るんだ」という「何か」を実行するのが大切です。「継続は力なり」―努力し続けるというよい習慣を、ぜひつけてほしいと思います。
 受験やその他いろいろなものの突破も含めて、最大限に自分の人生を発揮できることが大切だと私は思うのです。

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