監督インタビュー

西澤昭男監督

4作目で実写、しかもドキュメンタリーを撮られたのは何故ですか?

私は映画について、<娯楽>より<感動>を重視して創っているので、アニメか実写かはあまり問題ではないのです。
今回はたまたまギュメ寺のことを書いた本に出会い、その再興に一人の日本人が深く関わっていたことを知り、自分がとても感動したので、その実際をドキュメンタリーにしようと考えたのです。

実際のギュメ寺はどんなところなんですか?

2時間の映画で全てを表すのはとても難しい。500名近い僧たちが、365日、早朝から寝るまで学問と修行に努めている。
張りつめた緊張感はあるが、僧たちのどの顔も不満のない柔らかな表情をしている。
この世にこんな世界があったのかという驚きがありましたね。

2007年8月のインドへの取材・撮影から、完成まで時間がかかりましたね。

70時間分のフィルムから25本のDVDにー。それを自宅に持ち込んで4時間へ~。
さらに2時間に編集していったのですが、正直大変な作業で、長い時間を要してしまいました。
また、2008年3月にチベット事件が起き、北京オリンピック、四川大地震もあって、チベット問題に対する中国の対応がとても厳しくなったこともあり、映像とシナリオの最終決定のところで、相当時間を使ったことも事実です。
この映画では政治的意図はまったくないんですけどね・・・・。

トンジョとデレクという2人の少年がとても印象的でしたね。

あの2人は先発のスタッフがよくぞ選んでくれたと思いましたね。
他にも青年僧の生活など、いい映像がたくさんあったのですが、最終的に2人に焦点をあてました。
故郷から数千kmも離れたギュメ寺での修行で、辛さやさびしさがないはずはないのに、2人ともちょっとシャイでいつも笑顔で健気に修行に励んでいました。今も2人の姿が胸に焼きついています。

ダライ・ラマ法王14世のインタビュー

ダライ・ラマ法王14世のインタビューはよく実現できましたね。

ギュメ寺と平岡氏についての映画で、法王にインタビューを、と今考えれば随分大胆なお願いをしたわけですが、日本事務所を通して2007年11月の伊勢ご訪問の際に、特別に時間を割いていただけることになったのです。
法王はとても優しくフレンドリーな方なのに、すべてを包み込んでくれるようなオーラがありましたね。
インタビューの後、部屋にいたスタッフの全員に自ら手をさしのべられ、握手をされました。緊張していたスタッフ一同大感激でしたね。

平岡氏と西澤監督

監督がこの映画で一番訴えたかったことは何ですか?

平岡氏(とご家族)の<利他>の心ですね。
自分のことしか考えない人が益々多くなっている現代にあって、他国の人、他国の宗教や文化のことを考え、黙々と支援を続けるということは、本当にすごいことなんですよね。
<支援をする>ではなく、<支援をさせていただく>。平岡氏はそのことをご自身の修行と考えておられる。ギュメ寺訪問を<巡礼の旅>としているのは、そういう意味なんだと思います。21世紀以降の人類や地球を救うのは、この<利他>の心にも現われている仏教の教えなのかも知れない、とふと思うことがあります。

その他、このドキュメンタリーで監督がこだわったことはありますか?

現地景色
西澤監督の音へのこだわり

まず、本編で音楽を一切使わなかったことですかね。編集作業に合わせて、数ヶ月音源探しをしたんですが、ピッタリのものがない。思い切って現地の音そのもので構成していこうと・・・・。鳥の声、風や火や水の音、お経の声など、全ての音がギュメ寺そのものなんですよね。
それから、ナレーションについて、一度声優さんで収録したのですが、やはりピッタリこないと考え、私自身が吹き込むこととしました。自分で書いたシナリオなんで、それなりの味は出せたと思っています。